MIRAGE TOWN




序章

 一台のジープが、草原を走っていた。
見渡す限り何もない、ただ広いだけの空間。
 ―― いや、
運転手は前を見つめながら思った。
 “街”があるか。
 地平線の先に、小さな影が見え始めていた。
 それは車の速度に合わせて大きくなり、ついに細かいところまで見えるようになった。


 “威圧の街”オーバーパワー。
 第一印象は威圧感。
 そう呼ばれる理由の一つに、その広さがある。
 最初に見えた時には点だったのだが、近付いてみると、無意味なほど広かった。
 実はこの草原一帯も“街”の一部なのだが、建築物があるのはこの地帯だけだ。
 だが、威圧の原因はそれだけではなかった。
 中央にそびえる巨大な塔―― それが、不気味な雰囲気を漂わせていた。
 ―― どうせなら「オーバーパワー」にすればいいのに。
 運転手はふと思った。誰が名付けたのか知らないが、“施設”のネーミングセンスを疑う。
 「オーバーパワー」は「威圧」―― 運転手は知らなかった。


 無線機を手に取り、
 「こちら“A−31”。『オーバーパワー』を確認しました」
 『予定より早いな、だが、こしたことはない……作戦に移れ』
 「了解……!?」
 無線機を置こうとして、ふと前を見ると、
 ……瞬間、視界が真っ白になった。それが閃光だと気付いた時には――
 そして何もかもが消滅した。
 後には、何事もなかったかのような、草原だけが残った。


 ……“街”の姿は、どこにもなかった。